ミソフォニア:音への敏感さ

 執筆者:総合内科専門医 荒井 隆志

 騒音は健康に害があることが医学的にも確認されています。さらに騒音の害には個人差があることが分かっています。
 今回音への敏感さについて個人差を含めて解説したいと思います。

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  騒音の医学的影響

 騒音は難聴の原因になるだけでなく、高血圧や糖尿病、睡眠障害が増加し、心筋梗塞のリスクが高まることも懸念されています。
 WHOが多数の論文を集めて検証した結果、道路交通による騒音が10dB(デシベル)上昇する毎に心筋梗塞を含めた虚血性心疾患のリスクが8%上がることが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29470452/
 これは公衆衛生において重大な問題と考えられ対策が必要です。

  ミソフォニアとは

 音を不快に感じるかどうかは個人差があり、特に不快に感じやすい人は聴覚過敏やミソフォニアと呼ばれています。
 ミソフォニアという病名はほとんど知られていませんが、軽度の人も含めるとかなりの患者数がいると推定されている病気です(正確な人数はわかっていません)。
 ミソフォニアは音嫌悪症や音恐怖症とも呼ばれ、特定の音に対して強い不快や嫌悪を感じる精神医学的な障害です(これに対してさまざまな音に対して過敏になるのが聴覚過敏症です)。
 不快を感じる音は人それぞれですが、咀嚼やくしゃみ、鼻をすする音、会話、笑いなどが代表的です。
 騒音でトラブルになっているケースでは、このミソフォニアが影響している場合がかなりあると思われます。

  ミソフォニアの対処法

 治療にはまだ確立されたものはありませんが、こういう障害があって他にも悩んでいる人がいることを知るだけでも気持ちが楽にはなるようです。
 ミソフォニアの当事者の方が立ち上げた日本ミソフォニア協会という組織も存在しています。
https://misophonia.support/
 対処法は苦手な音をうまく回避することが基本ですが、少しずつ音に慣れていくように自身で訓練してうまくいっているケースもあるようです(いまのところ精神科を受診してもなかなか対応はしてもらえないです)。

 音に対する敏感さは人それぞれですが、集団の中に音に敏感な人がいることで、人類が生き延びることに役立ったと考えられています。
 音に敏感な人には、獣や敵の襲来を早めに察知する役割があったわけです。そう考えると、音に神経質な人にも寛容になれますね。
 音への敏感さには個人差があることに配慮して、多様な人が生きやすい社会になればよいと思います。

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