機能性ディスペプシア

日本人はピロリ菌の影響で胃潰瘍や胃がんが多かったのですが、最近は減ってきています。現在ピロリ菌に代わって胃の不調の原因として最も多いのが、機能性ディスペプシア(FD)です。日本人の11~17%に機能性ディスペプシアがみられるという報告もあります。

目次

  機能性ディスペプシアとは

 機能性ディスペプシアは、胃に潰瘍やがんといった目に見える異常がないにもかかわらず胃の不調が続く病気です。過去に慢性胃炎と診断されていた患者さんの大部分が機能性ディスペプシアに該当すると考えられています。
 病名が示すように胃の機能に異常を起こしている状態で、胃の動きの異常(動きが悪い、動きすぎ)や知覚過敏が原因で症状が出ます。
 症状は胃もたれや膨満感、みぞおちの痛み、灼熱感(やける感じ)が代表的な症状です。

  機能性ディスペプシアの原因

  • 体質
  • ストレス
  • 生活習慣(睡眠不足、運動不足、たばこ、脂質過剰)
  • ピロリ菌

 機能性ディスペプシアの原因は多岐にわたります。遺伝的な体質に加えて、心理的なストレスも大きな要因となります。
 脂質の多い食事や運動不足、睡眠不足も悪化の原因となるため生活習慣に注意が必要です。
 たばこも症状を悪化させるため、機能性ディスペプシアの人は禁煙が強く勧められます。
 ピロリ菌が機能性ディスペプシアの原因になることもあり、ピロリ菌が陽性の場合は除菌することで症状の改善が期待できます。
 現在のところ上記のような原因が複数重なって機能性ディスペプシアを引き起こすことが考えられています。

  機能性ディスペプシアの診断

 問診で症状の詳細や経過を確認することで、おおよその診断は可能です。
 ただ潰瘍やがんなどの病気がないかどうかは注意が必要で、一度は内視鏡検査をしておいたほうが安心です。内視鏡で異常がないことを確認するだけでも、安心して症状がよくなることもあります。
 特に体重減少や嘔吐、便の色の異常がある場合は必ず内視鏡検査(胃カメラ)をしておいたほうがよいです。


 また胃の症状と思いきや、胆石やすい臓、肝臓に異常がみられることもあるため、エコー検査や血液検査も必要に応じて行います。
 いのちにかかわる病気が隠れていることもあるため注意が必要です。

  機能性ディスペプシアの治療

 機能性ディスペプシアはいのちにかかわる病気ではありませんが、生活の質を大きく損なうため対策が必要です。
 治療の目標は症状をなくすことではなく、日常生活に支障のない程度に軽くすることを目標にするのが適当です(症状を完全になくしたいという完璧主義は、逆に症状を長引かせる原因となります)。

薬物療法

  • 胃酸分泌抑制剤(プロトンポンプ阻害薬)
  • 消化管運動改善薬(アコファイド)
  • 漢方薬(六君子湯)

 くすりによる治療は、①胃酸分泌抑制剤(プロトンポンプ阻害薬)、②消化管運動改善薬(アコファイド)、③漢方薬(六君子湯)の3つが大きな柱になります。
 みぞおちの痛みや胸やけがメインの場合は、胃酸分泌抑制剤を優先して使います。胃もたれや食欲不振が目立つ場合は、消化管運動改善薬や漢方薬を使うことが多いです。
 すぐに効果が出るわけではないので、あせらず気長に治療に取り組んでいく姿勢が大切です。
 機能性ディスペプシアの治療薬はプラセボ効果(薬効そのものではない効果)も大きいので、主治医との信頼関係を築きつつ、くすりの効果を期待して飲むことも大切だと思います。

生活習慣

 機能性ディスペプシアの治療はくすりに頼るだけでなく、生活習慣の見直しも重要です。
 睡眠不足や疲労は症状を悪化させるため、睡眠時間の確保は大事です。たばこや飲酒も悪化の原因となるため控えるようにします。
 脂質の摂取が悪化因子になるといわれていますが、油の質がより重要です。肉類や揚げ物などの酸化した油は避けて、オリーブオイルやオメガ3脂肪酸といった良質な油を摂取するのがおすすめです。

機能性ディスペプシアは胃の不調の原因として最も多い病気です。診断する際には他の病気が隠れていないかどうかに注意が必要です。治療には薬を飲むだけではなく、生活習慣の見直しも重要です。

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